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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)1087号 判決 1983年3月10日

上告人

夫太郎

右訴訟代理人

斎藤一好

徳満春彦

山本孝

被上告人

妻花子

右訴訟代理人

高橋正雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斎藤一好、同徳満春彦、同山本孝の上告理由第一について

第一審において離婚請求について全部勝訴の判決を受けた当事者も、控訴審において、附帯控訴の方式により新たに財産分与の申立をすることができるものと解するのが相当である。これと同旨の原判決は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二について

原判文に徴すると、原審が本件財産分与の額を定めるにあたつて被上告人の被つた精神的損害の点をその要素として考慮したものでないことは、明らかである。したがつて原判決に所論の違法はなく、また、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、原判決を正解しないでその不当をいうものであつて、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の裁量に属する財産分与額の量定の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 和田誠一)

上告代理人斎藤一好、同徳満春彦、同山本孝の上告理由

第一、原判決には次の点で、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背がある。

一、本件第一審判決は、被上告人の離婚請求と、金三〇〇万円の慰謝料請求を全部認容しており、被上告人としての控訴の余地のないものである。

然るに原判決は第一審においてまつたく審理の対象となつていない被上告人の財産分与の申立てを付帯控訴として許したうえ、これについて認容する判決をしている。

これは、第一に控訴および付帯控訴が、敗訴当事者にとつてのみ許されるという民事訴訟の基本原則を逸脱したものであり、第二に、財産分与の申立について、人事訴訟手続法一五条の規定による第一審の審理の機会を奪うものであつて許されない。

二、財産分与は本来は民法七六八条二項にもとづき家庭裁判所の専属管轄とされている。

人事訴訟手続法一五条は、民法の例外として、離婚または婚姻の取消の訴が提起されたときは、財産分与と離婚または婚姻の取消とは関係があり、同時に解決するのが便宜とするため、財産分与の申立を許しているのである。

従つて、本件のように、第一審で財産分与の申立てがなされていない場合に、第二審においてはじめてその申立てをすることは、財産分与を家庭裁判所の専属管轄とした民法の規定にもとることになる。

三、最高裁判所判例(最高判昭和三二年一二月一三日民集一一巻一三号二一四三頁)は第一審で全部勝訴の判決をうけた当事者も控訴審で請求の拡張をするため、付帯控訴をすることができるとの趣旨を判示している。

この判例は、付帯控訴も控訴のひとつであることを看過した不当なものであつて、変更されねばならないが、この判例の立場を容認するとしても、本件のように第一審においてまつたく審理の対象となつていない財産分与の申立てまでも付帯控訴において拡張することは許されない。

財産分与の申立てについては、離婚判決確定後においても、当事者は管轄の家庭裁判所に審判の申立てをすることができ、被上告人は第一審で慰謝料請求額を三〇〇万円から五〇〇万円に増額することによつて請求の拡張をするのとはまつたく性質を異にしているのである。

すなわち、慰謝料請求についてすでになされた第一審の審理のうえ控訴審で数的な拡張をするのと、民法七六八条三項の「当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮し」た財産分与について控訴審で新たに審理するのとはまつたく別であり、第一審をまつたく省略して控訴審において財産分与の審理をすることは違法といわねばならない。

第二、<以下、省略>

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